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おまけ企画「The時給探偵 エピローグ」!(3/3更新)
さて!お待ちかねです皆様!(本当に?)
主宰の鈴木です。
このたび、『時給探偵』お遊び企画の第一弾として、本編(第2回公演『〜17時までの名探偵〜』)のエピローグを掲載することとなりました。ぶっちゃけグダグダ感も漂ってますが、それはそれ、「鈴木区っぽさ」ってことで消化不良しておいて下さい(笑)。
本当はこの話、実際に公演として打とうと思ったのですが大盤振る舞いです。
皆様の日常の、何かの形でのお暇つぶしにして頂けたら光栄です。では、どうぞ。無料です。

あ、画像はクリックで大きくなりますよ。



『The 時給探偵』エピローグ↓↓


第一章 とまと君の・・・家出!?


 僕の名前は駒小舞(こまこまい)とまと。探偵だ。今日も依頼の電話は無く、たまにくる仕事といったら浮気調査かペットの捜索願いばかり。おかげで動物病院と勘違いした主婦からの電話もかかってきてしまうほど。

「ジリリリ、ジリリリ・・・」

 おや、言ってるそばから電話だ。はてさて、今日の依頼は浮気調査か、ペット探しか。

「もしもし、「からさわぎ探偵事務所」のとまとですけど」
「ああ、とまとかい。ワシじゃよ、かぼちゃじゃよ」
「え、・・・・・じ、じちゃま!」

 声の主は僕の祖父、駒小舞かぼちゃだった。
 僕の生まれた「駒小舞村」はいくつもの小さな集落からなる地図にも載っていない村で、じちゃま──つまり僕の祖父は、そこで26代目の村長を務めている立派な人だ。由緒正しき駒小舞の血を引く僕は、いわば27代目の村長を約束された存在だったが、今は探偵業を生業としている。じちゃまからしたら複雑な心境には違いないが、それはまた別の話。

「じちゃま!」
「そうじゃよ、じちゃまじゃよ。今日も元気で探偵やっとるかい」
「やってるよ!こないだなんて僕、金持ちマダムからの依頼のネコを捕まえたんだから!」
「そりゃ凄いのう。黄門様もびっくりじゃ」
「なんたって僕は、名探偵だからね!」
「そうかいそうかい、フォッフォッフォ。じちゃまは最近ウィルコムと契約したよ。今のこれもウィルコムだよ」
「そうなんだ、全然分からなかったや」
「ところでな、とまとや──」

 言いかけると、じちゃまは途端声をひそめ、僕にこんなことを言ってきた。

「村へは、いつ帰ってくるんじゃ?」

 ──そうだった。駒小舞村は、今年、140年に一度の収穫祭の年で、大規模なお祭りをやる年だったんだ。僕は即答した。

「明日、帰るよ!」



「The 時給探偵〜ドキッ!とまと君の湯けむり温泉殺人事件〜」
劇団東京都鈴木区 おまけ企画
『The 時給探偵
       〜ドキッ!とまと君の湯けむり温泉殺人事件〜

脚本・構成・撮影 鈴木智晴




「いってらっしゃい。お土産はじゃがりこのご当地のやつでいいよ」

 彼の名前は空澤木(からさわぎ)ココゴロウ。しがない探偵だ。パッと見冴えない感じもするが、これでも一応僕の先生だ。ただ先生は度を越えた出不精なので、外回りの仕事は僕が全部こなしている。まったく、やんなっちゃうよ。先生は基本的には使えないんだけど、たまに鋭い時もあるから、そこそこの腕前の探偵なんではあると思う。とにかく僕は現在、この人の助手を勤めながら探偵業を学んでいる。

「いいんですか、先生?」

 村へ帰省したい旨を伝えると、いともあっさり快諾してくれたので、僕は思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

「構わないよ。この2〜3日は私一人でなんとか頑張るとするよ。先日は色々あったし、ゆっくり休んでおいで」

 はは〜ん、読めたぞ。この人、時給をケチる気だな。
 ──僕は先生のもとで助手を勤めてはいるが、基本的にはアルバイト契約だ。なので、一時間あたり680円できっちりタイムカードを切っている。この人は、ここ数日仕事が無いこともあって、僕のシフトを削ろうって魂胆なんだ。そのテにはのるかいな。
 僕は力いっぱいデスクを叩いて言ってやった。

「先生!僕、11月からの有給がまだ残ってるんですからね!今回はそれを行使しますよ!」
「そんな、とまと君・・・!」
「先生は何も分かってないんだから!僕がどれだけ先生に尽くしているか!それを・・・シフトを削ろうだなんて。ムッキー!」
「とまと君、違うんだ、とま、」

 じゃがりこなんて買ってやるもんか。僕はそう心に誓い、引き止める声を振り切って、ジャケットを羽織り、むんずと帽子を掴み、部屋を出た。

「先生の、ばか!」



第二章 車窓からのキモチ

 電車の車窓から広がる景色は、都会で疲れた僕の心を少しだけ癒してくれた。僕の生まれた駒小舞村は、都会から電車を80本ぐらい乗り継がないと辿り着かない偏狭の地で、温泉通の間では秘湯としても知られる「駒小舞之湯(こまこまいのゆ)」がある場所としても有名、だったりする。この駒小舞之湯、血行を良くするだけでなく、鼻先の冷え、親不知の痛み、口唇ヘルペスなんかにも効くと言われているマニアックな温泉だ。

「じちゃまもばちゃまも、元気かなあ」

 小さな窓に広がる一面の銀世界を眺めながらポツリと呟くと、すうっと冷たいものが一筋、頬を伝うのが分かった。
 探偵になると決めたあの日から、僕は涙を捨てた。はずなのに、やっぱり故郷が近づくにつれて、物寂しさもあってか、滲んだ景色を覆う白く眩しい光に、思わず吸い込まれていきそうなのが自分でも分かった。
 クスンとしていると、ガラガラのはずの一両編成の車両にも関わらず、ふと話しかけてくる声が聞こえた。

「うす、名探偵」

 呼びかけに応える形で声のする方を向くと、そこには、「からさわぎ事務所」の下の階にある純喫茶「ラ・バラクーダ」でアルバイトをしている女子高生が立っていた。

「ブースコちゃん!」

 彼女の名前は芥川(あくたがわ)ブースコちゃん。先日、とある事件をきっかけに親しくなった仲ではあるが、正直、僕はこの娘が苦手だ。どこか僕のことを下に見ていることが癪にさわるんだもの。

「旅行なの?」
「違うよ。僕はこれから実家に帰るところなんだ。大事なプライベートってやつさ」
「なるほど、休息・・・か」
「ブースコちゃんこそ、旅行?」
「うす。自分、父方は北欧の血を引いてはいるのですが、母方は日本人の家系なため、コッチ方面に母の別荘があるんです。別荘といっても20部屋ぐらいしかないので、もはや「ほったて小屋」レベルですが」
「へえ、そうなんだ。別荘とかかっこいいな!僕、別荘には特別な憧れがあるんだ!」
「・・・なら、別に、うちに遊びに来てくれても構わないけど。今は叔父が管理しているので叔父の許可が必要になってきますが」
「いいの?わあい、別荘とか行くの初めてだや!じゃ、また今度行くね」
「今度・・・うす」

 ──二時間ほどが経過しただろうか。いつの間にかいくつものトンネルを抜け、車窓から見える景色は一面銀色に広がっていた。その頃になるとブースコちゃんとは歳も近いとあって話も合い、お互いすっかり盛り上がっていた。

「茶帯なんだ!?」
「うす。一応、大会では三度ほど優勝を・・・近年は思うような結果は残せていませんが」
「凄いや!柔術なんて僕やったことないもの!」
「父から学んだ柔道をベースに護身用として始めたのがキッカケだったのですが、やっていくうちに、どんどんのめりこんでいってしまって」
「ふうん。それよりブースコちゃん、見て!やあ綺麗な景色だよ!」
「本当。心が洗われていくようね」

 流れていく景色は時間の経過を忘れさせていた。ブースコちゃんとの会話は思った以上に楽しく、気付けば二人のキャッキャいう笑い声が車両にこだましていた。
 たくさん笑ったからだろうか、今となっては、出発前の事務所でのいざこざもどうでも良い気持ちにすらなっていた。

「で、とまと氏。君は何故あの探偵事務所に籍を置いているの?君ほどの能力があれば、他にも買ってくれる所があるだろうに」
「うん、僕もそれは考えたさ。ただね・・・」
「ただ?」
「好きなのかも知れない、あの場所が。あの時間が。・・・あの先生が」
「・・・・うす。概ね理解しました」

 空澤木先生との出会いは数年前。僕が空き地で野良ネコに襲われかけていたところを助けてもらった時まで遡る。それ以来、僕にとって先生は恩人であり、師であった。ブースコちゃんとの会話の中で、ふとそんな気持ちを思い出してしまった。
──家に着いたらまず先生に電話しなきゃだや。ケンカして出てきちゃったもんね。──


 その時だった。ゆるやかに時間を運ぶ小さな車両中に、大きな轟音が響き渡った。

DOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!

「え?え?何、何?」
「おいちちち、受け身を学んでいたからいいものの、それでも全身を痛打しましたわ・・・」

 轟音と共に僕らを襲った衝撃の前に、僕らは座席から離れた床に叩きつけられた。凄い衝撃だった。とっさに身体を伏せ、周囲を見渡すと、他の乗客も同じように床に叩きつけられる者、頭をぶつける者、脅える者といるようだった。

「事故だろうか、これは・・・」

 考えられるのは車両の脱線事故か。僕は、倒れるブースコちゃんを介抱しながらも、様々な可能性を模索してみた。
 程無くして、車内に車掌と思われる人物の声が響いた。

「びだた〜ん(皆さん)、どぅびばでん(すみません)、てんろでぃ(線路に)、そうがいぶとぅがあって(障害物があって)、ぶとぅかったいまてぃた(ぶつかっちゃいました)」

 内容はさておき車掌のあまりに酷い滑舌に、車内はより一層の混乱を極めた。

「ハ?何て?何て?」

 乗客の一人だろうか、老夫婦の婦人がよろよろと立ち上がり、車掌に詰め寄る。

「だどでてぃばだくうごきまでん(なのでしばらく動きません)」
「イヤだから、何て?」

 婦人はさらに怒りの形相で詰め寄る。他の乗客もそれに続いた。

「ハッキリ言ったらどうなんだ!」
「べ?(え?)」
「この電車はどうなったんだ!今の衝撃は何だ!」
「くわてぃことはまだわかでぃまでんが(詳しいことはまだ分かりませんが)、てぃばだくうごきまでん(しばらく動きません)」
「お前じゃ話にならん!責任者出せ、責任者!」

 こう見えて僕は探偵だ。得意の読唇術を駆使したおかげで僕には車掌の言っていることが一言一句間違わずに分かる。車掌が言うにはこの車両は事故で、しばらくは動かないそうだ。僕は衝撃で一旦は飛ばされた帽子をキュっと被り直し、すくりと立ち上がり、乗客に向けて叫んだ。

「皆さん!この人の滑舌にこれ以上の期待は禁物です!この電車は動きません!」

 ざわつく車内で、滑舌の悪い車掌が僕に向かってこんなことを言ってきた。

「わたてぃのかとぅぜとぅがわどぅいどはたむたのていでとぅ!(私の滑舌が悪いのは寒さのせいです!)」

 僕は無視して続けた。

「皆さん、ちょうどこの山を下ったあたりに村があるっぽいですよ。幸い、外はまだそんなに暗くありません。ここは一つ、各自解散ということで、明日また、電車が直った頃に集合というのはどうでしょう」

 この時点での僕の選択は正しかった。と、こん時は思っていたが、のちのち冷静になって考えたら一番危険な選択肢だったんじゃないかと、ちと反省。でもこの程度のミスはミスには入らない。小せえこといちいち気にして探偵業がつとまるもんか。話を続けよう。

「てなわけでブースコちゃん、一旦村へ降りてみようよ」
「うす。とまと氏が言うなら」



第三章 女将と料理長

 15分程歩くと、案外あっさりと民家らしき建物を見つけられた。

「ここだ!ここにしようよ!」

 一晩だけでも部屋を貸して下さいと入口をノックしようと思った刹那、僕の腕を誰かが掴んだ。ブースコちゃんだった。

「駄目す。それはまずいす」
「ど、どうして?」
「・・・・・」

 ブースコちゃんは答えなず、うつむくままだ。

「ブースコちゃん、この手を放してよう」
「・・・仮にもうら若き乙女と血気盛んなとまと氏。この宿の中でどんな間違いがあるか分かったもんじゃないっす」

 それでも放さないブースコちゃんが小さな声でこんなことを言ってきた。僕は思いも寄らないブースコちゃんの発言に戸惑いながらも、次の瞬間には激ギレしてこんなことを怒鳴りつけていた。

「失礼なことを言うもんじゃないよ!!!」

 まったく、失礼にも程があるよ、ぷんぷん。冷静になって考えてみれば失礼なのは僕のようだった気もするが、まあいいや。小せえことは気にしない。探偵だもの。すっかり意気消沈したブースコちゃんが、観念したのか、掴んでいた手を放し、入口をノックすることを認めてくれた。


「すいませ〜〜〜ん。「からさわぎ探偵事務所」のとまとってモンですけど〜」

 どれだけノックしても、人が出てくる気配はなかった。おかしい。空き家であるような雰囲気ではない。周囲を見渡すと村には数件の民家があり、それらは一件一件が距離を置くように点在している。ここから百メートル程離れた場所にも家らしきものはあるが、それらには他の乗客達がお邪魔しているようだ。それぞれの家のキャパ的に見てもそう広くない坪数っぽいので、一世帯に何人も推し掛けるのはそれこそ失礼だろう。僕はしつこく入口をノックし続けたが、いっこうに人の出てくる気配がないのに嫌気がさしてきた。

「うーん、居留守かなあ。うちの先生もよく居留守使うんだ。さては僕らのことを借金の取立てやなんかと勘違いしてるんじゃないかなあ」
「どうすんの、とまと氏?」
「入っちゃえ入っちゃえ!」
「え?え?」

戸惑うブースコちゃんの腕を引っ張り、僕は思い切って入口の引き戸に手をかけた。


「ガラガラガラガラー」


 引き戸はいともあっさり開いた、どうやら鍵はかかっていなかったらしい。いよいよ外も冷えてきたこともあり、僕は迷わず家の中に足を踏み入れた。
 建物は二階建てで、薄暗い一番奥には厨房らしきスペースがあり、小さいながらも温泉なんかも付いているようだったが、今は使われているような感じではなく、ところどころ寂びれていた。ギシ、ギシ、と床を軋ませ奥へ少しずつ進んでいくも、明かりはなく、まだ日暮れ前だというのに室内は陰気に包まれた暗闇と化していた。決して高くない天井のあちらこちらにはくもの巣も張っているようだった。

「今は使われてないのかなあ」
「昔は宿・・・だったのかしら」

 うす暗闇の中、ボソボソと声を潜めながらブースコちゃんと会話する。少し怖がっているようにも見えた。無理もない。僕は探偵なので、このテの潜入操作は手馴れたものだが、シロートのブースコちゃんからしたら、これ程の不気味はないだろう。
 廊下を進むと厨房の手前に、二階へと続く階段を見つけた。
 一段一段、丁寧に敷かれた赤いじゅうたんを見るに付け、やはり歴史のある建物らしいが、やはり人の気配はない。僕は、足元をじっくり確認しながら、階段に足をかけた。

 二階まで昇りきると、一階とはまるっきり違う景観が飛び込んできた。じめりじめりとした一階とは異なり、ゆるやかな日光が射し、整頓された部屋が数部屋、広がっていた。薄暗闇の緊張から解き放たれた反動か、気持ちも一気に明るくなるようだった。

「やあ、明るい!ちょっと疲れちゃったからひと休みしていこうよ、ブースコちゃん!」
「そ、そうね。さすがに疲れたし」

 僕達は(勝手に)部屋に上がりこみ、ひと休みすることに決めた。


「にしても一大事でしたなあ。まさか電車の事故でこんな目に遭うとは・・・」
「まったくっすね。ふう」

 旅の疲れ、とまではいかずとも、やはり座敷は良い。これまでの疲労が薄れていくようだった。明日の朝一番には電車に乗り、村へ向かわなくては、じちゃまもばちゃまも心配しているに違いない。この家の主が帰ってきたら事情を説明し、ついでに電話も借りるとしよう。

 しばし座敷でくつろいでいると、一階の入口を開ける音がしたのち、人の話し声が聞こえてきた。この家の主が帰ってきたようだ。僕はブースコちゃんを部屋に残し、一階に駆け下りていくことにした。



 

「おいでやすー。ゆっくりしていっておくんなましー」

 若女将が三つ指をつき、不在の謝罪を入れる。かまいませんよ、という談話ののち、この宿の料理長と名乗る男も現れ、夕食の支度を約束してくれた。不在だった理由は、一部の調理器具と食材を買出しに出ていたためと説明する若女将。どうやらここ数日の間に、ここの料理長が姿をくらましてしまい、しょうがなく新しい料理長を雇うこととし、今日は市場の人への顔見せも兼ねての外出だったとのこと。姿をくらました料理長に関しては、ここ数年の不況のため、給金の未納が溜まったせいではないかと若女将は説明する。

「世知辛い世の中ですなあ!」

 若女将の肩をポンと叩くと、肩を震わせているようだった。ここ数年、余程金銭面で辛い思いをしてきたのだろう。料理長がそっと寄り添い、肩に手を添えた。


「どこも似たようなもんですよね。ご迷惑をお掛けしました。」

 顔を上げた若女将は、ドキッとする程の美人さんだった。聞けば、この村一番の美人さんらしく、毎年行われているコンテストでもぶっちぎりの優勝なんだとか。なるほど、納得だ。


「じゃ、ゆっくりしてってくだせえ!食事の用意が出来ましたら大きな声で呼びますんで!」

 威勢の良い料理長がよく通る大きな声でそう言うと、若女将と共に部屋を出て行った。ひとまず安心だ。宿の電話も借り、じゃちゃまとばちゃまにも連絡を入れた。
 先生には、事務所の電話を何度鳴らしても出るようすがなかったのでまだ話はできていない。
 きっとまた水道料金の請求か何かと勘違いして居留守を決め込んでいるのだろう。基本的に「からさわぎ探偵事務所」の電話担当は、この僕が一手に務めている。その僕が今こうして不在なのだから仕方のない話か。


 夕食までにはまだ早いとあって、それまでの間、僕とブースコちゃんは宿にある温泉に浸かることにした。ここでもブースコちゃんとはひと悶着あったが、馬鹿にしないで欲しい。僕はお風呂は一人派だ。ちょいちょい女の子というのは出しゃばってくるのがやはり癪に触る。混浴ならやむなく一緒に入るしかないが、男女分かれた浴室なんだから、もう。

 風呂場は幸いにも露天だった。ここの温泉は、若女将が言うには秘湯中の秘湯らしく、慢性的な肩こりや拒食症、ヒザ前十字靭帯の損傷なんかにも良く効くらしい。なるほど、それは助かる。何しろ僕は肩こりがひどい。いつもバッグの中に様々な探偵グッズを忍ばせているおかげで、とにかく肩がこるのだ。

 脱衣所に入ると、奥の薄暗いスペースの一角に、扉が見えた。そこには「マッサージ室」と書かれた小さな小部屋があるようだった。扉の中からは、「ガガガガガ...」という、重たく低い音が絶え間なく聞こえてきていた。少し嫌な予感がした僕は、その扉に近づき、静かにノブに手をかけた。
 扉には、鍵がかかっていないようだった。
 ギイと扉を開け、わずかな隙間から中を覗くと、そこには、



「あ〜キモっちぇ〜〜」


 僕は見なかったことにし、そのまま静かに扉を閉め、鍵をかけた。

 嫌な予感は的中した。
 扉の中にいた人物は、「からさわぎ探偵事務所」のあるビルの管理人・鎌堀幹太(かまほりみきた)。こう見えて本当はオカマだが、しかし何故管理人さんがこの宿に・・・?


 まぁいいやと溜息をつき、暖房の効かない冷えた脱衣所の真ん中で僕は服を脱いだ。脱衣所の中には程好い硫黄の臭いと、全身を包み込む心地良い湿気に溢れていた。いやがおうにも温泉への期待値も高揚するというものだ。だいぶ冷え込んできた床に素足を付けペタペタと音を鳴らして歩き、古びた引き戸に手を掛ける。びゅうと冷たい風と共に、あたたかい熱気が全身にまとわりついてきた。まるでスモークでも焚いたかのような湯気が風に乗り身体をすり抜けたあと、ぱあっと視界が開ける。そこに広がる露天の景色
 ──なんと絶景か。
 目の前に広がる山脈には雪のパウダーが彩られ、空を縫う雲間にはトンビ(かなぁ、よく分かんないや。鷲?)が翼を広げ悠々と飛んでいる。時間ももうそんな経過していたのか、オレンジと、パープルと、ブルーが美しいグラデーションを広げる夕焼け空に息を飲んだ。

「見事なパノラマだや!」

 チャプリと湯に足を浸すと、じわっと源泉が爪先から染み入る。完全に気のせいだが、もう肩こりも治ったような気すらした。少し熱いと感じる水温も、疲れた身体をほぐすには調度良い温度だった。僕は、湯船に身体を巡らせた。



「はぁ〜〜、極楽極楽。仕事の疲れもふっ飛ぶようだや・・・」

 普段は多忙のあまり、こうして湯船にゆっくり浸かる時間もないのだが・・・。
 湯けむりを揺らす風の匂い、遠くから聞こえる鳥の鳴き声、ちゃぽちゃぽと水面を伝う水の音。僕は、探偵として常に気の抜けぬ日々を送っている心身を共に脱力させ、湯船に浮かべてみた──。



第四章 湯けむり温泉殺人事件!?


「しかしホッコホコですなあ!」
「うす。ヒザの調子もだいぶ良くなった気がします。」
「悪かったんだ、ヒザ・・・」

 湯上りの火照りも冷めぬまま、しばしブースコちゃんと談笑をし、時を過ごす。あとは夕食を待つのみか。うん、悪くない。このまま優雅に一泊して、明日には駒小舞村へ向かおう。電車の件はまさかの大トラブルだったけど、こうしてみるとなかなかのバケーションだと感じる。先生への土産話も増えたしね。


 そんなゆったりとした時間を過ごしていると、まるでその空気を切り裂くかの如く、ドスン!というにぶい音が、建物の外から響いてきた。
 嫌な予感がした僕はとっさに窓のほうへ駆け寄る。先の管理人さんの件もそうだが、僕の“嫌な予感”というのは例外なくいつも当たる。嫌な予感がしなくても嫌なことは起こるものだが、嫌な予感がした時にも嫌なことは起こる。世の中、うまく出来てるんだか出来てないんだか。
 そんなことを考えながら窓の外を窺うと、僕の“嫌な予感”は、見事に的中していた。


「あああっ!」

 湯上がりで脱力しきっていた全身に一気に緊張が走る。その時、僕の目に飛び込んできたものは・・・、







 死体!!!


 つい先日のことだ。僕が籍を置く「からさわぎ探偵事務所」の、こともあろうか室内に、一体の死体が転がっていた。事件は、先生との推理もむなしく迷宮入りし苦汁をなめたが、同時に別件で抱えていたペット捜索のターゲットを無事確保し、事なきを得た。悔しくはあるが、「からさわぎ探偵事務所」に久々におとずれた難事件ではあった。
 今回は、その慰安も兼ねた旅行にしてやるつもりだった。しかし探偵の神様は、どうしても僕に休暇を与えたくはなかったようだ。
 僕は、衝撃と共に眼前に訪れたその“事件”を、強い覚悟と意志で受け止めることを決意した。


    ──先生がいない今、
          僕がしっかりしなきゃだや!──


「とまと氏、あれは・・・」
「間違いないよブースコちゃん、これは・・・殺人事件だ!」
「額に包丁が。自殺だとしたら豪快な方ね」
「ブースコちゃん、今すぐこの建物にいる人を集めて!」
「うす。ヒザが悪いのでダッシュはできませんが、そこそこに小走りで行、」
「急いで!!」

 つい今しがたドスンという音が聞こえたということは、まだ犯人は近くにいるかも知れない。湯冷めしかかった身体が再び熱く高揚する。・・・犯人は、この中にいる!
 間違いない。探偵としての嗅覚が僕にそう知らせる。見上げれば、空一面を覆うグラデーションも静かに闇を落とし始めていた──。



第五章 初めての「推理シーン」

「集めたよ、とまと氏」

 ブースコちゃんによって収集されたのは、宿の若女将、料理長と名乗る人物、そして管理人さん(あやうく忘れるとこでした)の3人。そして、ブースコちゃん本人と僕の5人。

「あ〜ら、とまと君にブースコちゃんじゃないの。こんなところで会うなんて奇遇ね。どしたの?二人でおデート?」

 管理人さんが陽気なテンションで場を和ませる。というか、この時点では集められた主旨を理解していないので、それも当然か。

「アタクシ、美容のためにちょいちょい秘湯めぐりするのが趣味なの。ホラ見て手の甲!ツヤッツヤなんだから」
 「本当だ本当だ」と気を遣ったブースコちゃんが笑顔で応える。

「ホラ、手の甲!」
「手の甲なんて二の次ですよ!今はそれどころじゃないんです!」

 どれだけ手の甲押しだよ、と僕は切り返す。今は管理人さんのこのテンションにかかずり合っている場合ではないんだ。
 さすがに空気が読めてきたのか、ごくりと唾を飲み込んだ管理人さんがすっと小さく右手を挙げ尋ねてきた。

「・・・ナニがあったの?まさかまた事件?」
「ズバリです。額に真っ直ぐ包丁の突き刺さった・・・死体が」
「また死体ッ!? キャア、死体怖〜い!怖いのキラ〜イ!」

 聞くや否や、管理人さんはバタバタと部屋から飛び出して行ってしまった。あの様子ではもう戻ってくることはあるまい。・・・一体何のために出てきたのやら。

「・・・とまと氏、警察には通報したの?」

 ブースコちゃんが小声で尋ねてくる。もちろん、警察には僕のほうからしておくつもりだ。それには様々な算段が働いた。僕の勘が正しければ、犯人は・・・・・ならば、完全に犯人を推理し突き止めてからでも遅くはない。ここだけの話だが、僕は内心、先生抜きでの初めての「推理シーン」に、心が躍っていた。
 これは、
 ──僕の初めての事件だ。
 絶対解決させて、先生への手土産にしてやるんだ。そして独立を匂わせてやんわりとギャラアップを交渉しよう。
 僕は、ぴっと背筋を伸ばし、収集された宿の人間を一人一人見回した。

「まさか、ウチの宿でこんな事件が・・・」
 振り返ると、おどおどする女将に、料理長がそっと寄り添い優しく肩に手を添えている。

「女将さん!ドンマイです!」

 この場合ドンマイはノリ的におかしいだろうとは思うが今はそこはどうでも良い。僕はつぶつぶと涙を落とす女将の真正面に立ち、同じ視線になるようひざを曲げた。

「・・・女将さん。一つ、お聞きしますが、昨日こちらの料理長と街へ買い出しに出たと、そう仰ってましたよね」
「はい・・・」
「その時、食材と一緒に「調理器具」を調達に行ったと言ってましたが・・・・・詳しくお聞かせ願えませんか?その「調理器具」について」
「え」
「まさかとは思うのですが、女将さんの言う「調理器具」というのは・・・まさか、」
「・・・・・」
「もし僕の推測が正しければ、日常において「それ」を「調理器具」とはめったに言いませんね」

 うつむく女将を前に僕は腕を組み直した。
 仮にこの「調理器具」が僕の想像する物と合致したなら、何故わざわざそんな遠回しな言い方をしたのだろうか。ここで言う「調理器具」、それは間違いなく死体に突き刺さった物のことをさすのであろう。ということは、女将にその事を突き詰めていけば、この事件に関して何らかの正解を導き出せるはず。僕にはそんな確信があった。
 しかし、自体は思わぬ方向へと展開する。


「憎かったのよ、あの男が!!!」

 
 ・・・時すでに遅し、とはこのことか。犯人はやっぱり女将だったのだ。や、僕も、うすらぼんやりと「そうなんじゃないかなぁ」とは思っていた。いたが、
 ──もうこうなってくると、今後何を推理しても全て後出しジャンケンだ。完全に僕の見せ場はもってかれた格好だ。
 泣き崩れたままの女将は続ける。
 
「彼と出会ったのは三年m、」

「知らないよ!!」
「とまと氏、落ち着いて!」

 制止するブースコちゃんを振り払い、僕は被っていた帽子を床に叩きつけ、思いのたけをぶつけてみせた。・・・せっかくの僕の記念すべき初事件が!おかげで、せっかくこの先色々用意していたシナリオや決め台詞も台無しになってしまったはないか!
 ああ、なんだか突然やる気がなくなって眩暈すらしてきた・・・。
 そんな僕を無視して話はきちんと進められているようで、はた目から見るに料理長が「殺人は立派な犯罪です」とかなんとか当たり前のことを言って女将をたしなめている様子だ。
 「・・・ううう、あれ?あれ?」ますます眩暈がひどくなる。
 僕は小さくうなると、突然襲い掛かってきた眩暈に抵抗する術も無く全身から一気に力が抜け落ち、そのまま気を失ってしまった──。


***

「おそらく、のぼせてしまったんだろうね。ここら一帯の温泉は源泉100%だから、馴れないうちから長時間浸かると体調を崩してしまうこともあるんだ」

 声の主は、ふと気を失ったままの少年探偵にそっと近づくと、おもむろに自らの顔に手を当てた。


 ぺりぺりぺりぺり。


「やあ、芥川君、お久しぶり」

「たっ、探偵さん!!」
「ハハハッ、とまと君が心配でね、ついつい後をつけてきてしまったんだよ。ちょっと無理があったかな?イテテ(ぺりぺり)」

 驚いた芥川ブースコは思わず声を上げた。男の名前は空澤木ココゴロウ。しがない探偵だ。普段は少年探偵・駒小舞とまとと共に雑居ビルの一室で探偵業を営んでいる。

「せっかくだから二人と同じ宿に泊まってビックリさせてやろうと思って先回りしたらね、色々あって女将さんに見つかっちゃって。で、面接に来ましただのツチノコ探してますだのウソにウソを塗り重ねていたらあれよあれよといううちに料理長に就任してしまって・・・・・ぶっちゃけ、ついさっきまで夕飯どうしようか本気で悩んでいたところだよ」
「そ、そうだったんですか・・・」
「それで気付いたら今回の事件だからね。本当に驚いたけど・・・さすがは私の優秀な助手だ」

 料理長・・もとい、空澤木ココゴロウは、変装用に着込んでいた割烹着(と付けまゆ毛)を脱ぎ去り、いつもの冴えないジャージー姿に戻ると、ニッコリと微笑んだ。

「お手柄だよ、とまと君」

 気がつくと、気を失っていたかに見えた少年探偵はグウグウと寝息を立てて眠っているようだ。

「まあ」
「よほど疲れていたんだろうね。芥川君、あとは任せていいかな?」
「え、先に帰っちゃうんですか?」
「・・・芥川君。このことはとまと君には内緒にしておいてくれないかな」
「どうして」
「今回の件で、とまと君はもう一人でも立派にやっていける探偵だって分かったからね。私にはそれで十分だよ。だからこのことは、君と私、二人だけの秘密ってことで、ね」
「・・・うす」

***



第六章 小さな名探偵

 窓に映る景色は、来た時に見たものと同じなはずなのに、不思議とどこか淡く、大人びた色調に感じられた。
 宿での事件は、結局、僕が気絶しているうちにお巡りさんやら何やらの大騒動となり、それなりに一段落ついてしまったらしい。ブースコちゃんがお巡りさんに「犯人を言い当てたのは彼」と気を遣ってくれたらしく、それを聞いた地元のお巡りさんが寝ている僕に敬礼と「いいこいいこ」をしてくれたという。まったく、子ども扱いして。やんなっちゃうよ。
 ──けどま、悪い気はしないや。
 帰りの電車でも会話は弾んだ。

「あの料理長もさ、一枚噛んでるんじゃないかと思ってるんだけど、どう思う?ブースコちゃん?」
「・・・かも知れませんね、クスクス」
「絶対そうだよ!だって見るからに怪しかったもの!ブースコちゃんは気付かなかった?」
「まったく」
「ま、僕は探偵だからね、そういうのには敏感なんだ」

 聞いた話では死体の男性は、先代の料理長だったらしい。女将との間に何があったかは知らないが、そんなことは今となってはどうでもいい。


「あ!もしかしたら黒幕はあの料理長だったのかも! こりゃ大変な難事件だぞう。早く先生に報告しなきゃだや!」


 あれほど白く眩しかった窓一面の雪景色は、一晩ですっかり緑色の景色に衣替えをし、山々の一部を除いては、春のおだやかな暖色が車窓の縁を明るく彩っていた。









キャスト
駒小舞とまと・・・戸田早奈美
芥川ブースコ・・・長治佳子
空澤木ココゴロウ・・・鈴木智晴
鎌堀幹太・・・宮岡あづさ
三指都貴子(女将)・・・桐山菜穂
死体・・・箕輪聡

ロケ地・・・石和温泉(笑) 
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2010/03/03 7:00 PM posted by: イーグルアイ探偵事務所 北大阪支社
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